大阪高等裁判所 昭和33年(う)371号 判決
原判決の挙示する証拠を総合すると、被告人は判示第一の犯行後ひそかに妻幸子と無理心中をすることを決意し、同女の父喜一郎殺害の事実を秘し、喜一郎方階下で妻と夕食をともにした上、同家二階で妻と同衾し、無理心中に誘い出そうとして真意を告げず、他所で一緒に暮そうとか、豊岡まで送つてくれとか言い、同女がこれを拒否すると、被告人は幸子の頸部に腰紐を巻きつけ、同女を絞め殺そうとしたところ同女が被告人のいうことはなんでもきくといつて哀願したので、哀れみを覚え殺害するに至らなかつたことが認められる。これによれば被告人が妻幸子を殺害するに至らなかつたのは、同女に対する愛情の念から殺害するに忍びず、任意にその実行を中止したことによることが明らかで、これに対しては中止未遂として刑法第四三条但書を適用すべきである。しかるに原判決がこの点について妻幸子が同衾中の被告人の前記の要求に対し、その意に従うと答えたので、殺害の動機となつた目的を達したためであると認めて障碍未遂としたのは、事実を誤認し且つ法令の適用を誤つたものという外はないが、判示第一と判示第二とは併合罪の関係にあり、判示第一の尊属殺人について無期懲役刑が選択されているので、同法第四六条第二項によつて、判示第二についての右誤りは、判決に影響を及ぼすことがないことが明らかである。論旨は結局理由がない。
(裁判長判事 万歳規矩楼 判事 武田清好 判事 小川武夫)